スピッツ 歴代アルバム感想 #1 ~1991-2004~
スピッツ
1991年3月25日
2002年10月16日(リマスター盤)
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.1万枚
▼収録曲
01.ニノウデの世界/02.海とピンク/03.ビー玉/04.五千光年の夢/05.月に帰る/06.テレビ/07.タンポポ/08.死神の岬へ/09.トンビ飛べなかった/10.夏の魔物/11.うめぼし/12.ヒバリのこころ
1stアルバム『スピッツ』。
デビューシングル「ヒバリのこころ」(今作と同発)とカップリング「ビー玉」を収録。6月に「夏の魔物」がリカットされた(カップリングとして「ニノウデの世界」もカット)。「ヒバリのこころ」はシングルよりもフェードアウトまでの時間が長くなっており厳密にはアルバムバージョン。
2002年10月16日に1st~8thアルバムがスティーヴン・マーカッセンによるリマスター盤として再発され、オリジナル盤は現在廃盤。08年12月17日にはリマスター盤をSHM-CDとして再発している。
記念すべきデビューアルバム。バンドサウンドやメロディーの雰囲気は現在とさほど変わらず、既に独特のスピッツワールドが展開している。歌詞の面では毒々しいフレーズも垣間見え、後にこの当時を振り返った草野が「これじゃ売れないわ」と語っているように、確かに一般ウケはしなそうというかどこかアングラな雰囲気が漂う。しかし「ニノウデの世界」や「テレビ」のようにストレートに爽快なナンバーもあるし、全体的に楽曲のレベルは高いと思う。
元々家にあった旧盤を聴いていた時はそこまでハマらなかったんだけど、後に音がくっきりはっきりしたリマスター盤を手にして聴いたら見違えるほど良く感じた。8thアルバム『フェイクファー』までがリマスター盤として再発されているが、この時期の旧盤は現在の感覚で聴くと音が小さくサウンドが貧弱に聞こえてしまうので、これから手にするなら圧倒的にリマスター盤の方がオススメである。
おすすめ度:B+
名前をつけてやる
1991年11月25日
2002年10月16日(リマスター盤)
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上0.1万枚
▼収録曲
01.ウサギのバイク/02.日曜日/03.名前をつけてやる/04.鈴虫を飼う/05.ミーコとギター/06.プール/07.胸に咲いた黄色い花/08.待ち合わせ/09.あわ/10.恋のうた/11.魔女旅に出る
2ndアルバム『名前をつけてやる』。前作『スピッツ』から約8か月ぶり。
シングル「魔女旅に出る」収録。
2002年10月16日に1st~8thアルバムがスティーヴン・マーカッセンによるリマスター盤として再発され、オリジナル盤は現在廃盤。08年12月17日にはリマスター盤をSHM-CDとして再発している。
ほんのりとした毒気、エロス、可愛らしさそれぞれが絶妙に混在した初期の名盤。思春期感とでもいうのだろうか。「名前をつけてやる」や「プール」を聴くと、まるで異世界に迷い込んでしまったようなどうしようもなく心細く、でもどこか心地良い不思議な心境に襲われる。パンクバンド時代の名残をおもわせる「日曜日」や「待ちあわせ」といった激しいナンバーもあり攻撃的な一面も姿を見せ始める。歌詞は前作『スピッツ』にもまして意味がよく掴めないものが多いけどそこが魅力でもある。
チャートイン記録無しなので後々のファンでも聴いた事の無い人は多いだろうけど、スピッツ好きならぜひ聴いておくべき一作である。前作同様に、中学時代に旧盤を借りて聴いた時にはあまりピンと来なかったのだが後にリマスター盤を手にしたら見違えた。個人的な今作最大の聴きどころは「プール」の間奏。あの圧倒的な世界観は絶対に味わった方が良い。
おすすめ度:A+
オーロラになれなかった人のために
1992年4月25日
2002年10月16日(リマスター盤)
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.1万枚
▼収録曲
01.魔法/02.田舎の生活/03.ナイフ/04.海ねこ/05.涙
ミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』。前作『名前をつけてやる』から約5か月ぶり。
3rdシングル「魔女旅に出る」でオーケストレーションを担当した長谷川智樹を共同アレンジャーとして迎えている。「ナイフ」は2010年の37thシングル「シロクマ/ビギナー」のカップリングにライブ音源「ナイフ(Live from SPITZ JAMBOREE TOUR 2010)」として収録された。
2002年10月16日に1st~8thアルバムがスティーヴン・マーカッセンによるリマスター盤として再発され、オリジナル盤は現在廃盤。08年12月17日にはリマスター盤をSHM-CDとして再発している。
オーケストラを意識したコンセプト・ミニアルバムという事だがほとんど草野マサムネソロみたいな印象であんまりバンドサウンドは感じられない。一つ一つの楽曲も悪くは無いんだけどそこまでインパクトも無いなぁと思う。しいていうなら「田舎の生活」「ナイフ」は好きな部類かな。夜中にじーっくり聴くとかなり染みると思う。未だにそこまで好きになれないアルバムだが、この経験が後のジャンボリーライブでの生オーケストラとの共演とかに繋がったのだとしたら、やはり意味のある企画だったんだなとも思える。
おすすめ度:C
惑星のかけら
1992年9月26日
2002年10月16日(リマスター盤)
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.1万枚
▼収録曲
01.惑星のかけら/02.ハニーハニー/03.僕の天使マリ/04.オーバードライブ/05.アパート/06.シュラフ/07.白い炎/08.波のり/09.日なたの窓に憧れて/10.ローランダー、空へ/11.リコシェ号
3rdアルバム『惑星のかけら』。前作『オーロラになれなかった人のために』から約5か月ぶり。フルアルバムとしては『名前をつけてやる』から約10か月ぶり。タイトルは「ほしのかけら」と読む。
同名シングル「惑星のかけら」収録。11月に「日なたの窓に憧れて」がシングルカットされた。
2002年10月16日に1st~8thアルバムがスティーヴン・マーカッセンによるリマスター盤として再発され、オリジナル盤は現在廃盤。08年12月17日にはリマスター盤をSHM-CDとして再発している。
前作『オーロラになれなかった人のために』の反動からか、歪んだエレキギターのサウンドが目立つロック色の強いアルバムとなった3rd。その半面、草野のボーカルが妙に弱々しく聞こえる時期でもあるのだが、ロックなサウンドとか弱い声のギャップがまた特別な世界を作り上げていてこれはこれで良い。攻撃的なイントロがカッコ良いシングル曲「惑星のかけら」でスタートし、珍しく英語詞に踏み切った「ハニーハニー」、軽快な「僕の天使マリ」と前半の勢いはかなりのものなんだけど、中~後半にかけてそこまで引き付けられる曲が無いように思うため全体的な印象は普通。この時期はやっぱ今にも消え入りそうなくらいに声が弱々しい気がするんだけど何でなのだろうか?
おすすめ度:C+
Crispy!
1993年9月26日 売上約10万枚
2002年10月16日(リマスター盤)
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.1万枚
▼収録曲
01.クリスピー/02.夏が終わる/03.裸のままで/04.君が思い出になる前に/05.ドルフィン・ラブ/06.夢じゃない/07.君だけを/08.タイムトラベラー/09.多摩川/10.黒い翼
4thアルバム『Crispy!』。前作『惑星のかけら』からピタリ1年ぶり。
シングル「裸のままで」収録。10月に「君が思い出になる前に」がリカット(12万枚)され初チャートイン作品となった(カップリングとして「夏が終わる」もカット)。さらにアルバム発売から4年後の1997年4月に16thシングルとして「夢じゃない」(33万枚)が別バージョンでリカット(カップリングとして「君だけを」もカット)。
リリース当時はチャートインせず。「ロビンソン」がヒットした95年5月に99位に初ランクインしたが1週のみですぐ圏外へ。97年に「夢じゃない」のリカットや「君が思い出になる前に」がCMソングに起用されたりと今作収録曲がピックアップされたため売上を伸ばし、97年5月に最高位である27位を記録した。最終ランクインは97年の8月。
2002年10月16日に1st~8thアルバムがスティーヴン・マーカッセンによるリマスター盤として再発され、オリジナル盤は現在廃盤。08年12月17日にはリマスター盤をSHM-CDとして再発している。
シンセサイザーやホーンを大々的に取り入れた、売れ線“狙い”全開なアルバム。これはここまでのセールス不振をうけ「このままではいけない」と思ったメンバー&外部プロデューサー笹路正徳の意図によるもの。少々空回り気味な気もする程の針の振り切れようで、ちょっとやりすぎなのでは?と思うくらいに明るい作風に変化している。先行シングル「裸のままで」では〈君を愛してる〉なんて今までに無かった直球フレーズが飛び出すあたりかなり頑張っている。まぁ後追いで聴くとそこまで違和感は無いんだけど当時のメンバー的にはかなり振り切って制作に挑んだんだろうね。
現在ではオーバープロデュースの象徴のように語られる若干可哀想な立ち位置のアルバムだが、一曲一曲に注目してみると中々良い曲も多い。「君が思い出になる前に」や「夢じゃない」は文句なしの名曲だし、可愛らしくもロックな「クリスピー」はライブでかなり盛り上がる。アルバム自体はヒットしなかったが、後にリカットした「君が思い出になる前に」は初チャートインとなったし、次回作以降へ繋げるために必要なクッションだった事は間違いない。
おすすめ度:B
空の飛び方
1994年9月21日 初動約3万枚 売上約86万枚
2002年10月16日(リマスター盤)
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.1万枚
▼収録曲
01.たまご/02.スパイダー/03.空も飛べるはず(Album Version)/04.迷子の兵隊/05.恋は夕暮れ/06.不死身のビーナス/07.ラズベリー/08.ヘチマの花/09.ベビーフェイス(Album Version)/10.青い車(Album Version)/11.サンシャイン
5thアルバム『空の飛び方』。前作『Crispy!』から約1年ぶり。
シングル「空も飛べるはず(Album Version)」(148万枚)「青い車(Album Version)」(5万枚)に加えカップリングから「ベビーフェイス(Album Version)」を収録。10月に「スパイダー」がリカット(3万枚)された(カップリングとして「恋は夕暮れ」もカット)。
O社初登場14位となり、アルバムでは初のチャートイン(前作『Crispy!』がチャートインしたのは1997年)。その後「ロビンソン」でブレイクを果たした95年夏から秋にかけてもランクイン。また1996年に「空も飛べるはず」がドラマ『白線流し』主題歌に起用され大ヒットすると引っ張られる形で今作も大きく売上を伸ばし、96年2月に最高順位4位を記録した(ちなみにドラマには今作に収録されているアルバムバージョンが使用されたらしい)。最終ランクインは96年7月で、オリジナルアルバムでは自身最大のロングセラー。
2002年10月16日に1st~8thアルバムがスティーヴン・マーカッセンによるリマスター盤として再発され、オリジナル盤は現在廃盤。08年12月17日にはリマスター盤をSHM-CDとして再発している。
個人的に次回作『ハチミツ』と並んで自分のJ-POP史の始まり頃に聴きまくったアルバムなので思い入れも半端無く強いが、それを差し引いても素晴らしい内容だと思う。捨て曲まったくナシ。本当に全曲名曲。J-POPのスタンダードとも呼べるようなポップスが主体となっており、全体を通してかなり聴きやすく耳触りの良い曲が並んでいる。前作は何か無理矢理テンションを上げさせられたようないわば不自然なアルバムだったが、今作はほどよく無理せずに、自らが居るべき位置に落ち着いた作品という印象で実に自然体。『ハチミツ』程では無いにしろこちらも邦楽史に刻まれる超名盤である。
おすすめ度:A+
ハチミツ
1995年9月20日 初動約47万枚 売上約169万枚
2002年10月16日(リマスター盤)
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.2枚
▼収録曲
01.ハチミツ/02.涙がキラリ☆/03.歩き出せ、クローバー/04.ルナルナ/05.愛のことば/06.トンガリ’95/07.あじさい通り/08.ロビンソン/09.Y/10.グラスホッパー/11.君と暮らせたら
6thアルバム『ハチミツ』。前作『空の飛び方』から約1年ぶり。
シングル「ロビンソン」(162万枚)「涙がキラリ☆」(98万枚)に加えカップリングから「ルナルナ」を収録。
4月発売の「ロビンソン」がミリオン超えの大ヒットを飛ばし遂に本格ブレイク。続く「涙がキラリ☆」もミリオン目前まで迫るヒットとなり、まさにバンドが絶好調の時期にリリースされた。結果、初の1位獲得となり、169万枚の大ヒット。オリジナルアルバムでは自身最大のセールスを記録し、スピッツ全体では非公認ベスト『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』に次ぐ自身2番ヒット。カバーモデルの守屋綾子は全ての写真において顔を隠しているが、初回盤のケースでは顔を確認できる。
2002年10月16日に1st~8thアルバムがスティーヴン・マーカッセンによるリマスター盤として再発され、オリジナル盤は現在廃盤。08年12月17日にはリマスター盤をSHM-CDとして再発している。
2014年にテレビドラマ『あすなろ三三七拍子』主題歌に「愛のことば」が起用され、リミックスを施した「愛のことば-2014mix-」として配信限定でシングル化。また2015年12月には今作の発売20周年を記念して今作収録曲を若手ミュージシャン達が丸ごとカバーしたトリビュートアルバム『JUST LIKE HONEY~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~』がリリースされた。
Mr.Children『深海』、河村隆一『Love』と並ぶ、わたくしマーの個人的J-POP三大名盤の一つ。思い入れが強すぎてフラットには語れないが、とにかくアルバム全体通して勢いが凄まじい。前作で至った自然体の世界観を残しつつ更に進化。誇張無しで、全曲シングルカットできるクオリティ。まさに全盛期真っただ中という感じで、どの曲もキラキラ輝いていて果てしないオーラに包まれている。世間一般が思うスピッツのイメージに一番近いオリジナルアルバムは多分コレなんじゃないだろうか。全体的にポップで可愛らしいがそれだけでもなく、「愛のことば」のようなシリアス路線の曲や、「トンガリ’95」のようにハードな曲もあり実に多彩。彼らのありとあらゆる魅力がギュッと凝縮された、何年経っても色あせない名盤中の名盤だ。素晴らしい音楽をありがとう。
おすすめ度:S
インディゴ地平線
1996年10月23日 初動約68万枚 売上約134万枚
2002年10月16日(リマスター盤)
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.1万枚
▼収録曲
01.花泥棒/02.初恋クレイジー/03.インディゴ地平線/04.渚/05.ハヤテ/06.ナナへの気持ち/07.虹を越えて/08.バニーガール/09.ほうき星/10.マフラーマン/11.夕陽が笑う、君も笑う/12.チェリー
7thアルバム『インディゴ地平線』。前作『ハチミツ』から約1年1か月ぶり。
シングル「チェリー」(161万枚)「渚」(84万枚)に加えカップリングから「バニーガール」を収録。「渚」はシングル収録時には無かったイントロが追加されている。自己最高初動をマークし、前作に引き続きミリオン超えの大ヒットとなった。累計では『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』、『ハチミツ』に次ぐ自身3番売上。またプロデューサー笹路正徳との最後のアルバムである。
2002年10月16日に1st~8thアルバムがスティーヴン・マーカッセンによるリマスター盤として再発され、オリジナル盤は現在廃盤。08年12月17日にはリマスター盤をSHM-CDとして再発している。
秋の空気を思わせる、しっとり落ち着いた雰囲気のアルバム。前年の大ブレイクに浮かれる事なく、しっかり地に足をつけて活動していくぞという意気込みを感じる。地味なイメージもある作品だが、「初恋クレイジー」はシングル級の風格がある良曲だし、「ハヤテ」や「ナナへの気持ち」みたいな可愛らしい世界観の小品も豊富。タイトルチューン「インディゴ地平線」は突き抜けたサビでは無いものの、どっしりと構えた感じでアルバムを象徴するような名曲。やはり良メロの連発なので安心して聴ける一作だ。ただ前後作に比べると一曲一曲のキャラクターがやや薄めな気がしてしまうのは、やはり大名曲「チェリー」の放つ圧倒的なオーラのせいなのだろうか…。
おすすめ度:B+
フェイクファー
1998年3月25日 初動約31万枚 売上約70万枚
2002年10月16日(リマスター盤)
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.2万枚
▼収録曲
01.エトランゼ/02.センチメンタル/03.冷たい頬/04.運命の人(Album Version)/05.仲良し/06.楓/07.スーパーノヴァ/08.ただ春を待つ/09.謝々!/10.ウィリー/11.スカーレット(Album Mix)/12.フェイクファー
8thアルバム『フェイクファー』。前作『インディゴ地平線』から約1年5か月ぶり。
シングル「スカーレット(Album Mix)」(60万枚)「運命の人(Album Version)」(29万枚)「冷たい頬/謝々!」(9万枚)に加えカップリングから「仲良し」を収録。7月に「楓」がリカット(「スピカ」と両A面 14万枚)された。笹路正徳から離れほぼセルフプロデュースとなった作品だが、サポーターとしてカーネーションの棚谷祐一を迎えており共同でアレンジがなされている。ジャケットのモデルは田島絵里香(メンバーによる面接が行われたらしい)。
2002年10月16日に1stアルバムから今作までがスティーヴン・マーカッセンによるリマスター盤として再発され、オリジナル盤は現在廃盤。08年12月17日にはリマスター盤をSHM-CDとして再発している。
ここ数作のアルバムとは異なり、全体的にロックな印象に包まれている。次回作『ハヤブサ』で一気にロック色が強くなるが、これはそれに向けての過渡期的な作品。特にラストの「フェイクファー」はロックさとメロディアスさが上手いこと混ざり合って生み出された名曲。この時期のスピッツにしか出せなかった“味”がつまった抜群の一曲だ。笹路Pの手を離れたことでレコーディングが上手くいかなかったりと壁にもぶつかったらしく、草野曰く「あまり思い返したくない」アルバムらしいが個人的には名盤。作風が変化してゆく彼らの一時期を見事に切り取っていると思う。
おすすめ度:A+
99ep
1999年1月1日 初動約12万枚 売上約21万枚
▼収録曲
01.ハイファイ・ローファイ/02.魚/03.青春生き残りゲーム
3曲入りEP『99ep』。『フェイクファー』から約9か月ぶり。
チャートではアルバム扱いとなっている。全曲セルフプロデュースであり、ライブでキーボードを担当していたクジヒロコがレコーディングに初参加。初回盤はデジパック仕様でおみくじ・特製ステッカー封入。
2004年のスペシャルアルバム『色色衣』に3曲共収録されたのを期に今作は生産中止となった(あちらには「ハイファイ・ローファイ」「青春生き残りゲーム」がリミックスされて収録されている)。
シングル、アルバム、ミニアルバムのどれにも分類されないという事で立ち位置が微妙な作品で、現在中古屋でもシングルコーナーに置かれていたりアルバムコーナーに置かれていたりとかなり曖昧な扱いになっている。後の『色色衣』で3曲共入手はしていたので今作は長らく聴いてなかったんだけど、ミックスが異なるという事で後追いで手に取った。
リリースを前提としてレコーディングされた楽曲たちでは無いらしく、3曲入りだがどれがメインという訳でも無くとりあえず出来たから纏めましたみたいな感じ。確かに「ハイファイ・ローファイ」は『色色衣』収録のバージョンと比べるとかなり質感が異なる。『色色衣』の方がよりロック度が増しており、こちらのオリジナルバージョンはややまろやかな感じ。メンバーは今作のミックスに納得がいっていなかったそうだが(だからこそ生産中止になっているんだろうけど)、どちらにもそれぞれの良さがあるので、『色色衣』との聴き比べなんかしてみても面白いと思う。
おすすめ度:C
花鳥風月
1999年3月25日 初動約24万枚、売上約43万枚
▼収録曲
01.流れ星/02.愛のしるし/03.スピカ/04.旅人/05.俺のすべて/06.猫になりたい/07.心の底から/08.マーメイド/09.コスモス/10.野生のチューリップ/11.鳥になって/12.おっぱい/13.トゲトゲの木
スペシャル・アルバム『花鳥風月』。シングルのカップリングや未発表音源、セルフカバー、インディーズ作品等で構成された企画盤。
シングルでは「スピカ」(「楓」と両A面 14万枚)がアルバム初収録。4月に「流れ星」(2万枚)がリカットされた。「流れ星」は辺見えみりに、「愛のしるし」はPUFFYに提供した曲のセルフカバー。「野生のチューリップ」は遊佐未森に提供した曲の未発表音源。「おっぱい」「トゲトゲの木」はインディーズ盤『ヒバリのこころ』より収録。
初回盤はブック仕様でありメンバーによる特別対談が記載された解説書が付属。実質裏ベストであり、当時のベスト盤ブームに対するアンチテーゼ的な意味合いもあったらしいのだが、この年の年末にはレコード会社主導による非公認ベスト『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』がリリースされてしまう事となる。鈴木あみ『SA』(初動約106万枚)、宇多田ヒカル『First Love』(76万枚)に阻まれ最高順位は3位。
2021年には今作にインディーズアルバム『ヒバリのこころ』収録曲4曲を加えた『花鳥風月+』がリリースされ、それに伴いオリジナル盤は生産終了となった。
カップリングでも特に実験に走ったり、お遊び路線に走ったりする事の無い彼らなので純粋に良い曲が並んでいる。編集盤とはいえ一つのオリジナルアルバムのような雰囲気でもある。温かみのあるメロディーが染みる「猫になりたい」なんかはシングルに匹敵する名曲(元々A面候補だったとか)だし、「俺のすべて」のゴリゴリしたロックさはA面では見る事の出来ない魅力だ。「コスモス」のどんよりした感じはちょっと暗すぎな気もするが悪くは無い。(たぶん)プレッシャーに縛られず作られた曲達だからか、聴いててホッと出来るアルバムである。
おすすめ度:B
RECYCLE Greatest Hits of SPITZ
1999年12月15日 初動約58万枚、売上約215万枚
▼収録曲
01.君が思い出になる前に/02.空も飛べるはず/03.青い車/04.スパイダー/05.ロビンソン/06.涙がキラリ☆/07.チェリー/08.渚/09.スカーレット/10.夢じゃない/11.運命の人/12.冷たい頬/13.楓
非公認ベストアルバム『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』。スペシャル・アルバム『花鳥風月』から約9か月ぶり。
このアルバムのリリースはメンバー・事務所の許可を得ないままにレコード会社が決定し、強制的に行われた。かねてから「ベストアルバムは解散する時にしか出さない」との姿勢を貫いてきたスピッツにとってこれは当然納得のいかないリリースであり、公式サイトには「これはメンバーの意志ではありません。諸々の事情からレコード会社に一方的にリリースされてしまいました」とのメンバー自身の声明が載せられる等かなり異例の事態となった。
『RECYCLE(使い回し)』という皮肉ともとれるアルバムタイトル、メンバー写真が一切使われていないジャケット・ブックレット、チャートにランクインしたシングルをただ発売順に並べただけのやる気の無い構成等はメンバーによるもの。最低限の仁義としてマスタリングにもメンバー全員で立ち会っているが、これは自分達のセールスポイントを見直す良いキッカケになったと後に語られている。収録曲のうち「空も飛べるはず」「青い車」「渚」「スカーレット」「夢じゃない」「運命の人」はシングルバージョンではアルバム初収録だった。
そんな諸々あった問題作だが、公認・非公認とか関係の無い一般リスナーにとってはスピッツの初ベストは待ち望まれていたようで、同週発売だったCHAGE and ASKAの20周年ベスト『VERY BEST ROLL OVER 20TH』の2倍以上の初動を記録し初登場1位。結果的にダブルミリオンを突破するスピッツ史上断トツの最高売上となってしまい、発売以降も毎年10万枚以上が出荷され続けた。
限られた時期のシングルしか入っていない今作がロングヒットしている事にジレンマを感じたメンバーは2006年に公認シングルコレクション『CYCLE HIT Spitz Complete Single Collection』2枚をリリース。これを機に今作は200万枚超えのヒット作にも関わらず異例の製造中止となった。最終ランクインは2006年5月。
僕がJ-POPに興味を持った中学1年当時(2002年)、家に今作があったのでスピッツの入り口となったのはこのアルバムだった。当時は発売経緯にこんな問題のあった作品だなんて知らなかったので純粋に楽曲の良さだけを受け止めて聴いており、とにかく最高に素晴らしいアルバムだ!とリピートしまくった。「君が思い出になる前に」で始まって「楓」で終わるという流れは少しの無駄もなくとにかく最強に思えた。ランクインしたシングルをただ並べただけとはいえそれが皮肉にも素晴らしい並びになってしまっている。
実際、学生時代の友人やクラスメイトからの「スピッツのCD貸してくれない?」という要望の際に真っ先に渡すのは今作だった。一先ず「空も飛べるはず」や「チェリー」を聴いてみたいという初心者には抜群に機能するベストだったし、ゼロ年代前半に大量の新規ファンを呼び込んだアイテムだったのは間違いないと思う。もし今作のロングヒットが無かったらスピッツの現在の地位も危うかったかも…?とか言うとファンの方々に怒られるだろうか…。
現在では2006年の公認シングルコレクション『CYCLE HIT』2枚を入口とするのがオススメであるが、中古屋で安く入手できるという点から今作を最初に手にしてもそれはそれで良いと思う。今作をキッカケに他の時期の曲も聴いてみたいと思ったなら『CYCLE HIT』、もしくはオリジナルアルバムのどれかに進むと良いだろう。「今作はポップ過ぎる、ロックなスピッツこそ至高!」という意識がファンの間では根強いが、今作収録の大ヒット曲達があってこそロック期の良さにも気づけたので、存在意義を完全に失ってはいない1枚だと僕は思う。
おすすめ度:B
RECYCLE Greatest Hits of SPITZ / スピッツ
ハヤブサ
2000年7月26日 初動約21万枚 売上約37万枚
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.1万枚
▼収録曲
01.今/02.放浪カモメはどこまでも album mix/03.いろは/04.さらばユニヴァース/05.甘い手/06.Holiday/07.8823/08.宇宙虫/09.ハートが帰らない/10.ホタル/11.メモリーズ・カスタム/12.俺の赤い星/13.ジュテーム?/14.アカネ
9thアルバム『ハヤブサ』。非公認ベスト『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』から約7か月ぶり。オリジナルアルバムとしては『フェイクファー』から約2年4か月ぶり。
シングル「ホタル」(23万枚)「放浪カモメはどこまでも album mix」(「メモリーズ」と両A面 15万枚)収録。プロデューサーに石田小吉を迎えた。「メモリーズ・カスタム」はシングル「メモリーズ」に石田小吉作曲による新たな大サビと新たな歌詞を加え再アレンジしたもの。「ハートが帰らない」は歌手・五島良子とのデュエット。
19の『無限大』(初動約40万枚)、THE YELLOW MONKEYの『8』(初動約22万枚)に阻まれオリジナルアルバムでは94年の『空の飛び方』以来1位を逃した。
2002年のスティーヴン・マーカッセンによる旧作リマスター時には元々スティーヴンがエンジニアである事、オリジナル盤から僅か2年しか経っていない事などからか今作のみラインナップに含まれなかった。08年12月17日にはSHM-CDとして再発されている。
ベストを挟んで一気にロックな方面へと変貌した。世間が思うスピッツ像と自分たちの目指すバンド像のギャップに悩んで一時は解散まで考えたという彼らが、一旦ロックバンドとしてやりたい事をやってみようと思い作られたのがこのアルバムである。
これまでのようなポップ性・メロディアス性は薄れバンドサウンドが目立つ曲が並んでいるので、『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』のイメージのまま聴くと戸惑うだろう。僕も初めて聴いた時(2003年くらい)は「なんじゃこりゃ?」と思った。かろうじて「8823」「ホタル」あたりが良いかなと思えたくらい。これは流石に駄目だろ…と感じていたのだが、10年程経った頃からエレキギターの鳴りや、バンド感が段々と心地良く思えるようになってきた。これは僕の音楽の聴き方が年齢を重ねると共に徐々に変わってきているからだろう。昔はどちらかというとキライだった「いろは」も、イントロのパワーコードやサビでのギターフレーズが響いてくるようになり好きな一曲になった。
スルメアルバムという点ではミスチルにおける『Q』のような印象の作品である。という訳で最初の印象はかなり強烈だったものの現在では他に無い一作として結構好き。
おすすめ度:B
三日月ロック
2002年9月11日 初動約24万枚 売上約43万枚
2008年12月17日(SHM-CD)
2017年7月5日(LP) 売上約0.1万枚
▼収録曲
01.夜を駆ける/02.水色の街/03.さわって・変わって/04.ミカンズのテーマ/05.ババロア/06.ローテク・ロマンティカ/07.ハネモノ/08.海を見に行こう/09.エスカルゴ/10.遥か album mix/11.ガーベラ/12.旅の途中/13.けもの道
10thアルバム『三日月ロック』。前作『ハヤブサ』から約2年2か月ぶり。
シングル「遥か album mix」(32万枚)「さわって・変わって」(8万枚)「ハネモノ」(6万枚)「水色の街」(6万枚)に加えカップリングから「ガーベラ」を収録。
今作からプロデューサーに亀田誠治を迎えた。24thシングル「夢追い虫」はコンセプトの違いから、また発売こそ2001年であるものの制作自体は1999年に行われており時期がずれているためか今作への収録は見送られた。初回盤はブックレットが素材違い。
CD不況が深刻化してゆく中、同時期のMr.Children同様に2000年発売の前作よりも売上が上昇した。08年12月17日にはSHM-CDとして再発されている。
初めてリアルタイムで新作として購入したアルバム。前作『ハヤブサ』はかなりロック寄りに振り切れていたが今作ではロック度とポップ性のちょうど良い中間地点に立ったような作風で非常にバランスが良い。これはプロデューサーに亀田誠治を招いた成果でもあるだろう。今作以降のオリジナルはこの作風を突き詰める形で安定していく事になる。ミスチルに例えるならば前作は『Q』だったが、今作は『IT’S A WONDERFUL WORLD』にあたると思う。新たなフィールドに立った感じ。久々にきた長い1曲目「夜を駆ける」は冷たい空気感と美しいメロディーのハマり具合が絶品の名曲だし、バンド感全開のナンバー「けもの道」で勢い良く終わるというあたりも好印象。
おすすめ度:A
一期一会 Sweets for my SPITZ
2002年10月17日 初動約7万枚 売上約18万枚
▼収録曲 ※括弧内は歌唱アーティスト
01.スピカ(椎名林檎)/02.ロビンソン(羅針盤)/03.楓(松任谷由実)/04.青い車(ゲントウキ)/05.冷たい頬(中村一義)/06.空も飛べるはず(ぱぱぼっくす)/07.夢追い虫(セロファン)/08.田舎の生活(LOST IN TIME)/09.うめぼし(奥田民生)/10.猫になりたい(つじあやの)/11.チェリー(POLYSICS)/12.Y(GOING UNDER GROUND)/13.夏の魔物(小島麻由美)
スピッツのトリビュートアルバム『一期一会 Sweets for my SPITZ』。
スピッツの楽曲を様々なアーティストがカバーしたアルバム。トリビュートアルバムではあるものの「トリビュート」のタームは敢えて使われていない。ドリーミュージックのレーベル「Teenage Symphony」のコンピレーションアルバム第2弾としてリリースされた為、スピッツの所属しているユニバーサルからの発売では無い。初回盤には今作のアナログ盤が当たる応募券が封入されていた。
矢井田瞳の3rd『i/flancy』の2週目(約7万枚)に僅差で及ばず最高順位は2位。2015年には今作とは関連の無い新たな体裁のスピッツトリビュートアルバム『JUST LIKE HONEY~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~』が出ている。
参加アーティストは大御所から当時の若手バンドまで幅広い。それぞれ自由にカバーしており「青い車」や「夢追い虫」は歌い回しやそれこそコード進行まで変えてるんじゃねぇか!?って位に印象が異なるし「チェリー」に至ってはよく分からんミクスチャーロックみたいに変貌している。故に初めて聴いた当時(2002年)は「これは駄目だろ…」とのけぞったんだけど改めて聴いてみるとこの改変が割と面白いなと思えるようにはなった。
ただアレンジの妙とか抜きにして純粋に良いなと感じるのは「スピカ」「楓」「空も飛べるはず」「猫になりたい」「夏の魔物」辺りでどれも女性歌手がカバーしたものばかり。スピッツの曲はキーが高いし可愛らしい感じのものも多い(ファンとしてはそれだけでは無いと言いたい所だが)ので女性がカバーした方がしっくり来るように思う。男性では草野に敵わない。いっそ女性歌手限定でのスピッツトリビュートを聴いてみたい。
おすすめ度:C+
一期一会 Sweets for my SPITZ / スピッツトリビュート
色色衣
2004年3月17日 初動約13万枚 売上約25万枚
▼収録曲
01.スターゲイザー/02.ハイファイ・ローファイ(NEW MIX)/03.稲穂(NEW MIX)/04.魚/05.ムーンライト/06.メモリーズ/07.青春生き残りゲーム(NEW MIX)/08.SUGINAMI MELODY/09.船乗り/10.春夏ロケット/11.孫悟空/12.大宮サンセット/13.夢追い虫/14.僕はジェット
2ndスペシャルアルバム『色色衣』。1999年の『花鳥風月』同様にアルバム未収録曲やレア音源を中心に構成されている。『三日月ロック』から約1年6か月ぶり。
シングルでは「メモリーズ」(「放浪カモメはどこまでも」と両A面 15万枚)「夢追い虫」(11万枚)「スターゲイザー」(24万枚)がアルバム初収録。「僕はジェット」はインディーズ時代の未発表音源。99年のEP『99ep』収録の3曲が全て今作に収録(うち2曲はNEW MIX)されたため、『99ep』は製造中止となった。
カップリングでも妙な実験に走ったりしない彼らだけに、こうした編集盤もかなり良い内容になっており大満足な一作。全体的にロック色の強い曲が多く、「空も飛べるはず」や「チェリー」等ヒットシングルのイメージのみのまま聴くと最初は受け付けないかもしれないが、慣れてくるとこれもスピッツなんだと受け入れる事ができるはずだ。特にここで初めて聴いたミディアム曲「魚」や、「船乗り」「春夏ロケット」といったロック曲は大好きな一曲となった。こうした見つけにくい隠れ名曲にスポットを当て、世に送り出していくというのもこうした編集盤の役割であり意義だろう。前作『花鳥風月』に負けず劣らず素晴らしい内容だ。
おすすめ度:A
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著者:マー・田中(@kazeno_yukue)
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